■「まず、アマチュア無線の資格を取りましょう!」にこだわっていては、何も前に進みません。 盲ろう者に限らず、それは青少年に対しても同じです。 まずは「楽しそうなこと」「特別であること」が伝えられるかどうかでしょう。
全盲ろうの方は、普段対面コミュニケーションに使っているのは「点字リボン」や「指点字」、「指手話」といった点字や手話を使った方法です。 ですから点字を知らない一般者と交流するためには、手に文字を書く方法を除けば、「通訳介助者」が別に必要になります。
でも、もしここで、ある一人の全盲ろうの人が、アマチュア無線の資格をとり、和文電信を覚え、7.020MHz付近の電信バンドに一人で出てきた、としたらどうでしょうか?
相手のモールス符号を振動を使って理解し、縦振れ電鍵でこちらからもモールス符号を送る・・・これだけとってみれば、基本的に通訳介助者なしで、日本語の普通文でコミュニケーションがとれるはずです。 そしてここでは、盲ろうといった障がいがあることすら相手にも分かりません。 リアルタイムで日本中、そして欧文なら世界中の人ともつながることができます。
いままでモールス電信は、私にとって単に 「ピピーという音を、意味のある文字に置き換えて解読する、レトロな通信方式」という存在だったのですが、この振動アダプターを介することによって、「視覚にも聴覚にも頼らなくても成立する、ユニバーサルデザインの通信方式」であると気づくことができました。
■ただし・・・いぜんそこに至るまでには「アマチュア無線の免許の取得」という非常に高い壁が存在します。
最近、「アマチュア無線体験局制度」つまり免許保有者の指導の下で誰もが体験運用ができる制度ができたのですが、その操作範囲から「電信」だけが除外されています。 理由を総合通信局に聞くと、電信は「電気通信術」という特殊技能だから、ということでした。 でも盲ろう者が唯一体験できる無線通信方式はこの電信しかありません。 そこでちょっと食い下がってみたのですが、国際電気通信条約などで縛りがあるらしく、残念ながら答えは変わりませんでした。
しかしこれは「無線電信」に限ったことで、有線やネット上では使用に制約はないということでした。ですから例えば、zoom上で振動モールスで交信したり、対面で相手にタッチして伝える通信をモールスで行うことはOKなわけです。 そして、幸いなことに現在はネット上には免許がなくてもモールス通信を行うことができる「DitーDahーChat」という「場」も用意されているのです。
「対面タッチの触覚モールス」は、指点字や指文字と同じく1対1コミュニケーションの一種にすぎませんが、電気通信として行えば「ラウンドテーブル」つまり井戸端会議的なコミュニケーションも可能になります。 おそらく遠隔かつリアルタイムでできる触覚通信としては、考えうる唯一の方法になるでしょう。
そして、アマチュア無線免許の取得は、その延長線上に用意されていればいいと思います。
■このような方針で、24年8月31日~9月1日に姫路市で開催される「全国盲ろう者大会」での出展企画を考えました。
(参考)全国盲ろう者大会での出展企画動画
★なお残念ながら台風の影響により、2024年度の同大会は中止になりました。
(また来年、参加します・・・ 来年は10/16~18に宇都宮市で開催予定)
■「盲ろう者」と一括りに言っても障がいの程度は、「全盲ろう」、「弱視ろう」、「全盲難聴」、「弱視難聴」と大きく分けても4つあり、すべての方々が触覚だけが頼り、というわけではありません。
現状では、盲ろうの方がアマチュア無線をはじめるには、「国家試験」という壁があり、モールス符号はもちろんですが「テキストと試験問題を読むための点字の識字」も必要になってきます。 『指点字ガイドブック』(東京盲ろう者友の会編)によると、盲ろう者で点字を使う人の割合は4人に1人ぐらい) 1ビット3値(=短点・長点・スペース)のモールス符号に比べると、6ビット2値の点字の方が、おそらく習得は大変なのではないでしょうか?
そういった方々にとっては、「モールス符号を覚える」ことより「国試受験のために点字をマスターする」ことの方が、ハードルが高いかも知れません。
■でも、「点字」以外に、「触覚によるモールス」という、リアルタイム通信の選択肢がある、ということを知っておいていただくだけでも、悪くはないかな?と勝手に思っています。 そんなに大それたことを考えているわけではありません。 でも、こんなに触覚だけでも成立するぐらい自由度が高く、さらにすでに世界中でこの言語を操る人が少なくとも数百万人は居るのです。 ちょっと便利かなと思ったらそこだけ取り入れてもらえれば、と思い活動しています。
■盲ろう者の世界でも、数々のハイテク機器が開発され、個人レベルで実用に供されています。 しかしそのほとんどは、一般の晴眼・聴者の情報伝達手段と、盲ろう者のそれとは「お互いに不動」のものと考えたうえで、両者の橋渡し=インターフェースを構築しようとするものです。
一方で、このモールス電信は、「唯一、生身の人間が解読できるデジタル通信」であるところを拠り所にして、「お互いに少し努力して(電信というプロトコルへ、人種や言語を異にする人も)歩み寄る」ようにデザインされていたわけです。 そりゃ電気通信の先駆けですから、その時の技術で及ばない部分は、何とかして人間側でカバーせざるを得なかった、当たり前といえば当たり前のことです。 ともかく両者のアプローチは根本的に異なるわけです。
日本では高速道路はだいたい人里離れた山奥に通っていることが多いですよね。 まず山奥のインターまで車で行くのが面倒だったりしますが、そのちょっとした苦労をしてでも高速道路に乗るのは、乗ってしまえば圧倒的に便利だからでしょう。 そういう道路が(あまり車線は広くありませんが)すでにあるので、行先に応じてもし良ければ使ってほしい、そんな気持ちです。