はじめてのMSHV(2)


ただし、MSHVのマルチ応答シーケンスをDXバケーションで使うには、1つだけ大きな障壁があります。

それは、『非標準コールサイン』つまり移動局であることを示す”/(スラッシュ)”のあとに、”P”または”R”以外の文字が続くコールサインを使うと、このマルチ応答機能が動作しない、ということです。
実際に、「JK1FNN/JD1」というコールサインをMSHVに設定すると、1スロット動作であっても応答は1局だけで、複数(2局)への同時応答はしません。 これではMSHVを使うメリットはありません。
(実際に、自分で10数個の異なったFT8変調信号を作って録音し、それらをミキシングしたものを再生し、MSHVでデコ-ドして確かめてみました。)

これは、もともとのFT8というモード自体の仕様である「77bit以上の長さをもつコールサインはハッシュコード化される」ことに由来するようです。 「JK1FNN/1」と「JQ1YLK/2」の両局がQSOを始めると、オートシーケンスがエンドレスになってしまう、あの事象と同じです。
WSJT-X User’s Guide 7.5 「非標準コールサイン」の項にはこうあります。(以下抄訳)
――山形カッコは、囲まれたコールサインが完全に送信されるのではなく、より少ない数のビット(77bit以下)で済むハッシュコードとして送信されることを意味します。 受信局では、直近に受信されたフルコールサインがあれば、非標準コールサインを完全に表示します。 それ以外の場合は、<….>と表示されます。 これらの制限は、最小限の QSO のデフォルトメッセージを生成するアルゴリズムによって自動的に適用されます。 「/P」 またはVHFコンテストで使用される 「/R」 といった特別なケースを除き、WSJT-X 2.6 は 2 つの非標準コールサイン相互での交信をサポートしていません。――


これを解決するには、行く先で何とかしてスラッシュのないのコールサイン(JK1FNN/JD1ではなく、JD1***)を取得すれば、MSHVのマルチ応答機能が使えるわけですが・・・・そのために果して今や非常にハードルの高い「JD1コールの取得」にチャレンジするのか? 考えどころではあります。


MSHVの特長は、この「複数応答自動シーケンス」にあるわけですが、MSHVには日本語マニュアルは用意されていません。 またネット上にもあまり解説が見当たらないので、自分用にマニュアルを和訳してみました(全18ページ)。  以下、その複数応答の部分のみ抜粋します。



このように、MSHVは普通使いでは目立たず、呼ばれてくると1スロットのままマルチ応答に移行し処理能力が高くなる、という自在性を備えていて「どっちつかずのDXバケーション」にはうってつけのツールと言えるのです。 万が一もっと呼ばれるような事態になれば、セルフスポットでもして074から080にでもQSYして2スロット使えばいいわけです。

・・・ただし、MSHVにはHoundモードがありませんから、自宅からのふだん使い向きではありませんね。 

(2023.12.23)


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